東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)229号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実及び本願発明の要旨が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 取消事由(1)について
(一) 前記当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第五、第六号証により認められる本願明細書の記載によれば、従来から茶の生葉を蒸すのには胴回転型の攪拌式の装置を用い水蒸気(一〇〇度C)のみで行われていたが、水蒸気のみで行うと蒸し露が多量に生ずることになり、蒸し露が多い場合には茶葉の緑が曇つた色彩を帯び純粋な緑色とならず、味も水つぽくなり、その茶葉特有の色沢、滋味等が出せない欠点があつたこと、一方、水蒸気量を少なくして短時間で蒸すようにすると、生葉の芯まで蒸されなかつたり、あるいは、蒸された生葉と蒸されない生葉とが不均一となり、青臭さが生じ、製茶にしても香味等が悪い欠点があつたこと、本願発明は、このような水蒸気のみを用いる蒸し装置の欠点を解消して、茶の生葉を迅速かつ均一に内部まで蒸すことができ、蒸し露が少なく良好な蒸し作業を行うことができる茶葉蒸し装置を提供するため、前記特許請求の範囲に記載された構成を採用したものであること(別紙第一図面参照)、本願発明の装置を用いて茶葉蒸し作業を行うときは、乾燥熱風の流入口(7)及び加圧された水蒸気の流入口(8)から蒸し室(6)に入り筒体(4)周縁の多数の第一噴出口(5)から噴出する乾燥熱風及び水蒸気と中空回転軸(16)及び攪拌羽根(24)の噴出口から噴出する乾燥熱風とが乱流状態となり相乗効果をなして筒体(4)内の生葉を蒸すので、水蒸気量の充分な供給と熱風の熱量によつて生葉の芯まで迅速かつ均一に蒸し、熱風の熱量によつて蒸し露を少なくすることができ、また、蒸し室(6)に噴出された水蒸気が蒸し室(6)に連通する金網円筒(13)内に過飽和状態となつて浸入し生葉に当たつて冷却しても、金網円筒(13)内で中空回転軸(16)、攪拌羽根(24)に設けられた第二、第三噴出口(23)、(25)から噴出する乾燥熱風によつて蒸し露となることなく蒸散し、金網円筒(13)の出口まで生葉の蒸し作用が行なわれ、これらによつて短時間で良好な蒸し作業を行うことができ、自然の緑色を有する色沢、滋味、香味等が極めて良い製茶が得られるという作用効果を奏するものであることが認められる。
(二) 一方、成立に争いのない甲第二号証によれば、第一引用例の考案の茶葉蒸し装置は、補給室4の下部に連通し、上半周壁に多数の細孔を穿設した円管3を囲んで形成した蒸気加熱室5、6と、この蒸気加熱室5の側部に配設され蒸気加熱室5と連通する外胴14で覆われた回転網胴13と、蒸気加熱室5及び回転網胴13内を貫通して設けられた中実の攪拌羽根2を有する中実の回転軸1を備え、蒸気加熱室5、6には普通蒸気流入口8、9と高温蒸気流入口11を設け、また、回転網胴13を囲む外胴14に高温蒸気導管15及び熱風導管16を開口させたものであること(別紙第二図面参照)、そして、この考案の茶葉蒸し機は、蒸気加熱室に一〇〇度Cあるいはそれ以上の蒸気を送つて茶葉を蒸す従来装置の蒸気加熱室のみによる茶葉蒸し作業では茶葉を充分に蒸し、かつ熱気を細胞まで滲透させることが困難であつたので、この欠点を解消すべく、考案されたもので、蒸気加熱室において茶葉に適当温度及び流量の蒸気を当てて熱の滲透は不充分であるが適当な湿度を与え、次いで回転網胴において高温の蒸気及び熱風を当てることによつて熱の内部滲透を充分に行い、もつて形状香味佳良でしかも渋味苦味もなく変質変色しない優透な製品が得られ、特に夏茶のような硬葉でも色の良い香味水色ともによく夏茶特有の青臭味渋味等のない良質の製品が得られるという作用効果を奏するものであることが認められる。
(三) 以上認定の事実によると、本願発明においては、蒸し室(6)に蒸気と熱風を導入する構成とし、また、金網円筒(13)内に熱風を単独で噴出させる構成としているのに対し、第一引用例の装置においては、蒸気加圧室5(本願発明の蒸し室(6)に相当する。)には蒸気のみを導入する構成とし、熱風をも導入する構成とはしておらず、また、回転網胴13(本願発明の金網円筒(13)に相当する。)内には蒸気と熱風とを併用して噴出させる構成とし、熱風を単独で噴出させる構成としていないことが認められる。すなわち、本願発明と第一引用例のものとの間には、審決がその理由の要点3で認定する相違点の他に、右認定の構成上の差異があるといわなければならない。
そして、前叙のとおり、本願発明は、蒸し室に蒸気と熱風を導入する構成とすることにより生葉の芯まで迅速かつ均一に蒸し、蒸し露を少なくし、また、金網円筒内に熱風のみを噴出させる構成とすることにより蒸し露を蒸散させ金網円筒の出口まで蒸し作用を行うことをその目的及び作用とするのに対し、第一引用例の考案は、蒸気加熱室には蒸気のみを導入する構成として熱の滲透は不充分であるが茶葉に適当な湿度を与え、回転網胴において高温蒸気及び熱風を併用して噴出させる構成とすることにより熱の内部滲透を計ることをその目的及び作用とするだけで、蒸し露を少なくしこれを蒸散させることを目的及び作用とするものではないから、両者は、蒸し室及び金網円筒(蒸気加熱室及び回転網胴)における茶葉蒸し作業の目的及び作用が相違するものというべきである。
(四) 被告は、第一引用例は広く、熱風を併用することにより蒸気のみの使用によつては奏することが困難な蒸葉効果を奏しうることを示していると主張する。そして、確かに第一引用例の装置においては、前示のとおり回転網胴を囲む外胴に高温蒸気導管及び熱風導管を開口させたものであるから、広い意味においては茶葉蒸し作業に蒸気と熱風を併用することが示されているといえる。しかしながら、本願発明と第一引用例の装置とは蒸気及び熱風を用いる目的、作用を異にし、この差異に基づき両者はその構成において相違するものであること前示のとおりであるから、被告の右主張は反論として当を得ていないというべきである。
また、前掲甲第二号証によれば、第一引用例には、被告が引用する「茶葉の質に応じて普通蒸気、高温蒸気および熱気を適当に案配すべき」との記載があることは認められる。しかし、同号証によればこの文章は、原告が請求の原因四1(一)において引用する第一引用例の文章(同号証一頁右欄二〇ないし二八行)に続き、その内容を要約して述べたものであることが明らかであり、右の記載が本願発明の蒸気及び熱風の前示用い方ひいては本願発明の構成と同一のものを明示もしくは示唆するものということはできない。
さらに、被告は、蒸し室につき、予定されている導入気体が異なることを認めながら、その構造において本願発明と第一引用例の装置とは同一である旨主張する。しかし、蒸気のみを導入させるように構成された蒸し室と蒸気と熱風を導入させるように構成された蒸し室とでは、その技術的意義において異なることは明らかであるから、この技術的意義を無視する被告の右主張は採用することができない。
(五) 以上のとおりであるから、審決は、前記(三)において認定した本願発明と第一引用例の相違点を看過したものといわなければならない。
2 取消事由(2)について
成立に争いのない甲第三号証によると、第二引用例には、茶葉蒸し機において、蒸胴の中央部に架設した回転軸及びこれに設けた攪拌羽根を中空としてその周縁に多数の透孔を穿設し、この透孔から蒸気を噴出させることにより蒸気と茶葉との接触を向上させることが記載されているが、この透孔から熱風を噴出させることは記載されていないこと、これを示唆する記載もないことが認められる。また、成立に争いのない乙第一ないし第四号証その他本件全証拠によつても、右の回転軸又はこれに設けた攪拌羽根の透孔から熱風を噴出させるようにした茶葉蒸し機が本願出願前公知又は周知であつた事実は、これを認めることができない。
したがつて、これを公知の技術手段とした審決の認定は誤りである。
3 取消事由(3)について
上述のとおり、審決には、本願発明と第一引用例のものとの相違点の看過があり、また、公知ないし周知事実の認定に誤りがあるから、この過誤に基づいて本願発明が第一、第二引用例の発明を寄せ集めることにより容易に発明をすることができたとした審決の判断は、原告のその余の主張について判断するまでもなく、誤りであるといわなければならない。この点に関する被告の反論(第三二3)は上述したところに照らし理由がないことが明らかである。
4 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由があり、審決は違法として取り消しを免れない。
三 よつて、原告の本訴請求を認容する。
〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
ホツパ(2)の一側に、ホツパ(2)の下部と連通して周縁に多数の第一噴出口(5)を穿設した筒体(4)をある間隙を有して覆うように蒸し室(6)を形成し、この蒸し室(6)の側部に金網円筒(13)を駆動装置によつて回動可能に支承して蒸し室(6)と連通し、この金網円筒(13)を筒状カバー(15)で被覆し、前記ホツパ(2)筒体(4)金網円筒(13)内に、中空の回転軸(16)を駆動装置で回転可能に支承し、この回転軸(16)の周縁には中空の攪拌羽根(24)を複数設けて回転軸(16)と連通させ、回転軸(16)攪拌羽根(24)の周縁に第二噴出口(23)第三噴出口(25)を夫々穿設し、この回転軸(16)の一端より乾燥した熱風を流入させ、前記蒸し室(6)には乾燥熱風の流入口(7)及び加圧された水蒸気の流入口(8)を設けたことを特徴とした茶葉蒸し装置。(別紙第一図面参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙第一図面
<省略>
別紙第二図面
<省略>